Science
Unmet Medical Needs (UMNs)
一酸化炭素(CO)は“Silent Killer”として知られる極めて危険な有毒ガスであり、火災や不完全燃焼事故により日常的に発生します。日本では毎年約58,000人、米国では10万人以上がCO中毒に罹患すると報告されており、日本国内だけでも年間11億ドル規模の経済損失が生じています。さらに、CO中毒患者の約3割が遅発性脳症などの重篤な後遺症を発症し、長期的なQOL低下を招くことが大きな社会課題となっています。
しかし現在、COを直接的に中和する解毒剤は存在せず、唯一の治療法は高気圧酸素治療(HBOT)に限られています。HBOTは大型装置を必要とし、設置は高度医療機関に限られるうえ、対象患者は「意識があり、かつ熱傷がない」ケースに限定されます。熱傷を伴う患者は、より効果の限定的な大気圧酸素療法(NBO)しか選択肢がありません。こうした制約により、火災現場や搬送中に迅速な医療介入ができず、多くの命が救えない状況が続いています。
このように、効果的で、現場で即時に使用でき、後遺症の発症も抑制できるCO中毒治療薬の開発は、世界的に未解決の医療ニーズとなっています。
Our Solution
同志社大学が開発した「hemoCD」は、水中で安定して機能する水溶性人工ヘモグロビン化合物です。ヘモグロビンの約100倍という極めて高いCO親和性を持つため、静脈投与後に血中のCOを迅速に捕捉し、CO結合体として尿中へ排出します。このプロセスにより、ヘモグロビンの酸素運搬機能が速やかに回復し、直接的な解毒効果が期待されます。
Preclinical Evidence
これまでに実施したマウスモデルの実験では、hemoCDが血中のCO-Hb%(COが結合したヘモグロビンの割合)を迅速かつ大幅に低下させることを確認しています。また、投与したhemoCDは99%超が短時間で尿中へ排出され、主要臓器への蓄積が認められないことも明らかになっており、安全性の面でも高いポテンシャルを示しています。
Neuroprotection Against Delayed Brain-dysfunction
CO中毒後遺症(遅発性脳症)モデルにおいて、hemoCDの投与によりドーパミン神経細胞の死滅が有意に抑制されることを確認しています。さらに、低下した脳内ミトコンドリア活性(Complex IV)が顕著に回復することも明らかとなり、hemoCDが急性期だけでなく、後遺症発症の抑制にも寄与する可能性が示されています。
Product Concept
hemoCDは、比較的低コストで大量合成が可能であり、凍結乾燥により長期保存性を確保できる安定な低分子化合物です。現場では、粉末を注射液に溶解するだけで即座に調製でき、静脈投与が可能な“Ready-to-Use”のCO解毒剤として医療現場へ提供することを想定しています。
既存の高気圧酸素治療(HBOT)が大型装置を必要とし、搬送中や災害現場で使用できないのに対し、hemoCDは携行性・迅速性・投与の容易さにおいて圧倒的に優れています。また、タンパク質製剤をベースとした競合開発品と比べても、製造スケールアップの容易さ、保存安定性、安全性の面で大きなアドバンテージを有しています。